スパイスの歴史は、人間が進化し、2本足で歩いたあたりから既に始まっていたようです。私たちの祖先は野の植物を口にし、その味、薬効成分や活用法を身をもって学び、後の世代へと伝承してきました。
スパイスの知識を学ぶ上で、様々な歴史的変遷や発展、様々な書物や伝承などを避けて通ることはできません。この歴史的背景を含めた幅広い知識が、スパイス&ハーブコンサルタントとして知識の広がりや深み、実際の活用やアレンジする力を養います。
そんな奥深いスパイスの歴史について、知識を深めていきましょう。
古代文明における薬としてのスパイス
古代の様々な書物から、スパイスの歴史をひもといてみましょう。そこには、現代とは似た部分もあること、さらにそれが現代に受け継がれていることがわかります。
古代文明での薬としての使用
メソポタミア文明発祥の地、現在のイラクでは、紀元前3000年ごろから腹痛を治す薬として、タイム、シナモン、クミン、コリアンダー、ターメリック、アニスなどが使われていた事が、粘土板にくさび文字で記されており、現存するスパイスに関する書物のなかではこれが最古の物です。
紀元前1550年エジプトの医学書「エバース古文書」の中には、800余りの薬品に交じって、キャラウェイ、コリアンダー、サフラン、フェンネル、マスタード、ポピーシードなどが掲載されています。
ギリシア・ローマでは1世紀ごろ、皇帝ネロの侍医であったディオスコリデスが、900種類以上の薬物を収載した「薬物誌」を編纂し、その中にはペパー、ジンジャー、シナモンなどのスパイス類も含まれています。
1000年頃、ウズベキスタン生まれのイヴンシーナ(アヴィケンナ)が著した「医学典範」は、アラビア医学の宝典と言われ、ヨーロッパの医学校でも17世紀ごろまで教科書として使われていたほどに、西欧諸国への強い影響力がありました。
また、中国では、紀元前200~100年の後漢の頃に、中国最古の薬の事典「神農本草経」が著されました。
現代に引き継がれる薬用スパイス
スパイスやハーブは、今日では料理の隠し味、香辛料のイメージが強くなりましたが、上記のように、もともとは薬として使われていました。
現在でも西アジアから北アフリカ一帯にかけて、アラビア語で「アッタール」と呼ばれる薬種商人が、アラビア医学の知識を受け継いでいます。「アッタール」は、大昔は大航海時代の胡椒やナツメグなどを扱うアラビア商人でした。伝統薬も香辛料も同じ草根木皮であることから、現在では両方合わせて取り扱っています。彼らが常備する300種類ほどの伝統薬は、イヴンシーナの時代から治療に用いていたものと変わりません。
近代のヨーロッパ分類学者の人々も、スパイスやハーブが薬であることを明確にしています。それは学名を見れば一目瞭然です。
例えば、ローズマリーの学名は「ローズマリーオフィキナリス」、生姜は「ジンギベルオフィキナーレ」というように、「薬用の」という意味の「オフィキナリス、オフィキナーレ」を付けて、近縁であり、似ているけれでも薬用ではない植物との区別を図っているのです。
■Lesson1-1 まとめ■
- メソポタミア文明では腹痛を治す薬として、タイム、シナモン、クミン、コリアンダー、ターメリック、アニスなどが使われていた。そのことを記す書物が現存するスパイスに関する書物の最古の物である。
- 紀元前1550年エジプトの医学書「エバース古文書」の中には、キャラウェイ、コリアンダー、サフラン、フェンネル、マスタード、ポピーシードなどが薬として使用されていたことが記されている。
- スパイスは元々薬として利用され、近代のヨーロッパ分類学者もスパイスやハーブが薬であることを明確に差別化している。
- 例えば、ローズマリーの学名は「ローズマリーオフィキナリス」、生姜は「ジンギベルオフィキナーレ」というように、「薬用の」という意味の「オフィキナリス、オフィキナーレ」を付けることで、似ているけれでも薬用ではない植物との区別を図っている。