Lesson 10-3 スパイスの選び方③スパイスの安全性

Pierre-Yves Babelon/Shutterstock.com

バニラ乾燥の様子/Pierre-Yves Babelon/Shutterstock.com

 

アジア圏で市場に売られているスパイスは安全か

スパイスの主な生産地域は多くが熱帯、亜熱帯の発展途上国です。そのような国に旅行に行くと、大量のスパイスが市場で売られているのを目にするでしょう。発展途上国で生産されるスパイスの安全性はどのようなものなのでしょうか。

 

残留農薬の規制

発展途上国の生産地では、大手企業や商社による経営、また契約栽培が大部分を占めており、そのため使用される農薬も先進国の規制に準じています。さらに生産地からの流通トレーサビリティや加工前後や商品での残留農薬の監視も厳しく行っています。トレーサビリティとは、流通経路を生産段階から最終消費段階、あるいは廃棄段階まで追跡可能な状態をいいます。

この他にも、保管や輸送の段階で食の安全を確保するためにいろいろ工夫されています。日本でも残留農薬などを気にすることなく、世界のスパイスが最高の状態で楽しむことが出来るのは、このような多くの努力の積み重ねによってその安全性が確保されているからです。

 

加工メーカーが抱える殺菌問題

スパイスなどの加工メーカーが抱える問題として大きいのは、殺菌に関する問題です。

昔の人々は、冷蔵庫や保存料などの薬品もなかったため、食品の保存には大変気を使っていました。基本的に、生鮮食品はその日に使う分だけ求めその日のうちに消費するのが鉄則で、翌日に持ち越す場合は、油などで完全に火を通したり、スパイスを使ったり塩漬けにしたりと工夫を凝らしていました。
しかし、科学の発達した現代であっても菌が消滅する事はなく、O-157や鳥インフルエンザ、アフリカのエボラ出血熱など、世界的に深刻な感染症に脅かされている現状があります。

そのような中で、食品メーカーの殺菌技術に対する考え方も世界的に問題になっています。香辛料及び乾燥野菜は、1グラムあたり10万から100万個以上の微生物で汚染されていると言われています。東京都の条例では1000個までが許されるようです。
加工食品の調味料に使う場合は2次的被害があってはいけないので、加工食品メーカーは香辛料の殺菌に非常に気を使います

 

安全な殺菌方法とは?

香辛料や乾燥野菜の殺菌方法は、加熱法やガス燻製法、紫外線法や放射線照射法などがあります。

現在は加熱法が中心となっていますが、揮発成分を含む香辛料を加熱し殺菌する加熱法では香辛料の良さがそもそも失われてしまいますし、農薬の制限がある日本でのガス燻製法は非常に難しい方法で、そこで注目されるのが放射線照射法です。

細菌感染に脅かされる昨今、この放射線照射による殺菌技術に関心が高まり国際会議が行われていますが、日本の厚労省も農水省も食品照射には消極的です。これは日本の食文化の上で他国よりも乾燥スパイスへの依存度が低い事も理由の1つでしょう。

日本古来のスパイス類は、わさびや山椒など生で薬味として使用するものが多いのです。

 

細菌よりも恐ろしいのはカビ毒

また、スパイスの多くは、人手による野外作業で収穫されるので、土壌や埃からの微生物汚染や異物混入、ダニなどの虫害に対して常に気を使わなければなりません。また、天日乾燥後の保管や輸送が除湿された近代的な施設で行われることはほとんどありません。その為乾燥させたスパイスの表面で、カビが再び増殖する危険性が常にあります。

香辛料の汚染は、細菌よりもむしろカビ毒の方が発癌性もあり恐ろしいものです。それを防ぐ方法として食品照射が注目されています。これは上にも記載した放射線照射法に関連するもので、食品にX線、ガンマ線や電子線などの放射線を照射することにより、保存期間を長くし、殺菌・殺虫などを行う技術のことです。

私たちが庭先で採取し、家庭で使うハーブやスパイスは、せいぜい水で洗うくらいで使用しますが、一度の過ちの為に会社が潰れてしまう事もありうる現代で、加工食品メーカーはより確実な殺菌技術を求め続けています

世界で食品照射が実用化される中、日本はどのような道を歩んでいくのでしょうか。

 

■Lesson10-3 まとめ■

  • スパイスの生産が多い発展途上国生産地では、使用される農薬も先進国の規制に準じおり、生産地からの流通トレーサビリティや加工前後や商品での残留農薬の監視も厳しく行われているため。残留農薬に関して安全性は高いといえる。
  • トレーサビリティとは、流通経路を生産段階から最終消費段階、あるいは廃棄段階まで追跡可能な状態をいう。
  •  香辛料及び乾燥野菜は、1グラムあたり10万から100万個以上の微生物で汚染されていると言われおり、加工食品メーカーは香辛料の殺菌に非常に気を使うなど、食品メーカーの殺菌技術に対する考え方も世界的に問題になっています。
  •  香辛料や乾燥野菜の殺菌方法は、加熱法やガス燻製法、紫外線法や放射線照射法などがある。
  • 殺菌法として世界的に注目されている放射線照射法だが、日本の厚労省も農水省も食品照射には消極的である。これは日本のスパイス文化が生の薬味を中心に成り立っており、乾燥スパイスの需要が世界的には少ないという背景もある。
  • スパイスの多くは人手による野外作業で収穫されるため土壌や埃からの微生物汚染や異物混入、ダニなどの虫害に注意が必要である。
  • 天日乾燥後の保管や輸送が除湿など整った近代的な施設でなされない現在では、乾燥させたスパイスの表面でカビが再び増殖する危険があり、細菌よりもむしろカビ毒の方が発癌性もあり危険性が高いと言われている。その対策のためにもメーカーは食品照射の導入を模索している。